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日常の試運転と行動の再設計( #ディレクター日記 2020/06/03)

日常の試運転が始まる

この数ヶ月の時間が止まったような感覚をうまく言葉にできず、淡く懐く虚無的な感覚を「ロス感」と名付けた。そんな矢先に精神科医・斎藤環氏の「“感染”した時間」(2020年5月13日)というnote記事と出会う。


「それが“生産的”かどうかはどうでもいい。ただ活動——何かをすること——の機会の多様性のみが複数の時間線を育み、われわれの日常のリアルを支えている。外向きの不要不急を控えざるを得ない今こそ、内向きの不要不急を充実させる必要があるのだ」(斎藤環「“感染”した時間」より)

私が抱える「ロス感」は、「不要不急」の回復を図ることで解消される。僭越ながらその処方が効果的なことはなんとなく分かっていた。だからこそ、自粛要請下で、ゆっくりと「内向きの不要不急を充実させる」日常を送っていた。

しかし、5月25日に宣言が解除され、「外向きの不要不急」を控えざるを得ない日常が一旦終わった。様子を見ながら日常を試運転させるような危うさがあり、感染への不安も拭えないまま社会が動きはじめている。芸術文化業界でも6月1日からの文化施設活動再開に向け、各所での準備も進んでいる。

そんななか、ひとりのアーティストから私が所有している作品の借用依頼を受けた。イタリア・ミラノ在住の廣瀬智央(ひろせさとし)が、アーツ前橋での個展「地球はレモンのように青い」で展示したいという。

年初に連絡があり、美術館からは夏までの借用期間延長の書面も届いていたものの、もとは4月10日に開幕する予定の企画であった。いつできるようになるのだろうと心配していたら、プレスツアーの様子を伝えるニュースが流れてきた。6月1日から7月26日に会期が変更され、無事に開催されるらしい。廣瀬は、イタリア発・日本行きの最後の便でどうにか帰国し、2週間の自宅隔離生活を経て展覧会の開催を待っていたようだ。よかった。6月19日に全国の(越境)移動解禁が出たら、ぜひ訪れようと思う。


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▲アーツ前橋での個展用に貸し出した廣瀬智央の作品。この写真は、借用前に作品状態の確認をするためのメモ的写真で、箱に収まった状態のもの。状態も良く一安心。各国の紙幣で折られた家群。解釈を楽しむ作品だと改めて思う。

プログラムオフィサーの行動を再設計する


そのように文化施設が動き出す一方で、自分がディレクターを務める「東京アートポイント計画」は、まちなかをフィールドに展開する文化事業だ。ワークショップやフィールドワーク、小規模グループでのイベントを伴うプログラムが多く、まだ大きく動き出す訳にはいかない。とはいえ、7月には対外的な活動を再開しようとすると、6月中には具体的な準備に着手する必要がある。

そこで、コロナ禍後の再開準備を静かに進めてきた。その一つとして、アーツカウンシル東京側の専任スタッフである「プログラムオフィサー(PO)」の行動を再設計することからはじめた。

その1、現在の状況を書き留めるメディアの立ち上げ
メディアプラットフォームサービス「note」に東京アートポイント計画の公式アカウントを開設。POそれぞれも個人アカウントを持ち、プロジェクトの現場や中間支援の現場で見たこと、考えたことを書き記す活動をはじめた。


はじめてみると、POの個人アカウントによる情報発信がなんとも意欲的だ。週に数回更新するメンバーも現れ、それぞれの視点が共有される。「アートプロジェクトの現場から」「ジムジム会(事務局による事務局のためのジムのような勉強会)」「配信拠点「STUDIO302」をつくる」「“集えない”時代のアート・アクション」の4つのカテゴリー(マガジン)をPOが更新。私は「ディレクター日記」を月2回更新で書き続けるのが役目。

その2、「ROOM302」のスタジオ化
アートセンター「3331 Arts Chiyoda」3階にあり、講座等で活用してきたレクチャールーム+アーカイブセンター「ROOM302」を配信スタジオ化する。7月1日以降のオンライン講座等で運用をはじめる予定。密に集うことなく、声が届き、姿が見える。そんな動画や音声の配信/収録ができる施設を目指して準備している。


その3、共催団体とのネットワーク+勉強会の開催
昨年から実施している「事務局による事務局のためのジムのような勉強会(通称:ジムジム会)」もオンラインでスタートした。今年のテーマは「社会状況に応じたアートプロジェクト運営の工夫をお互いに考える」こと。年5回の勉強会を通じて、この状況だからこそできることを考えていく。初回は40人が参加する賑やかな会になった。


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▲「ジムジム会」キックオフの様子。共催団体事務局とプログラムオフィサーの総勢40名が集まり、お互いの状況やこれからの考えていきたいことを共有した。

しかし、アートプロジェクトの現場に関しては、まだまだ活動再開の具体的な見通しは立っていないことも多い。リモートでどう活動するか、フィジカルな交流はどうあるべきか。これらに関してはまだまだPOと事務局で調整と協議を続けていくことになるだろう。このあたりのリアルなレポートは、各プロジェクトに伴奏するPOが投稿するnoteマガジン「アートプロジェクトの現場から」を追っかけてもらえると、現場の空気感みたいなものを感じてもらえることと思う。

こんな感じで「note」にログを残していき、2021年3月には冊子としてまとめる予定にしている。

クリストが遺した言葉


最後に。アーティスト・クリストの逝去について。

6月1日から女子美術大学のリモート講義がはじまった。アートプロデュース表現領域2年生の「ミュージアムスタディ演習Ⅰ」を受け持っている。

私は、現代美術を語る際の参照点となる作家として「マルセル・デュシャン」や「ヨーゼフ・ボイス」を挙げるように、「クリスト」の名前を挙げる。想起すること、交渉すること、実現させること、記録を残すこと。適正なメディアを選び最大限に活用すること。アートプロジェクトで必要になることをすべて行ったアーティストだからだ。私はクリストに学んだことをベースに活動している。

講義の日の朝、アーティスト・クリストの訃報(1935年6月13日―2020年5月31日。享年84歳)を知った。

学生への自己紹介で、水戸芸術館とそこに勤務していた頃の仕事について話した。当然、クリストと共に取り組んだ「アンブレラ」プロジェクトのことも話す。モニター越しの学生達はクリストの名前を知らなかった。それでは知ってもらおうと美術手帖のクリストに関する記事を読んでもらった*。

「楽観的でいること。それから、もっとたくさんの人に会うことです。
狭いアート界の外にいる、たくさんの人たちにです」
(クリストからの若いアーティストに向けた助言として。美術手帖2017年1月号 「ARTIST PICK UP」より)

合掌。

*クリストは日本国内にもファンの多いアーティストであった。以下は、関連記事。
「クリスト、84歳で逝去。世界各地で大規模な梱包プロジェクトを展開」(美術手帖)
「さようなら、クリスト。梱包するアーティスト、84歳で逝去。」(Casa BRUTUS)
「プロジェクトは続き、ストーリーは残る。クリストインタビュー」(美術手帖)

*追記:TURN「テレ手のプロジェクト」和綿の育成(3週間目)。5月16日に蒔いた和綿は日に日に育ってくれている。写真は3週目の様子。

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(2020年6月3日 東京アートポイント計画ディレクター・森司)

*本記事は、アーツカウンシル東京ブログ「東京アートポイント計画通信」(2020/6/22公開)より転載しています。




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ありがとうございます^^
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東京都内各地で地域NPOとともにアートプロジェクトを展開する試み。noteではプロジェクトの舞台裏での試行錯誤や、現場の記録をお届けします。 https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/what-we-do/creation/hubs/

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ディレクター日記
  • 7本

「東京アートポイント計画」のディレクターであり、「Tokyo Art Research Lab」や「TURN」、「Art Support Tohoku-Tokyo」などアートプロジェクト関連事業の統括を務めるアーツカウンシル東京・森司の日記がはじまりました。文化を取り巻く状況が大きく変わってしまった2020年4月から、正直な戸惑いと未来に向けた試行錯誤について綴っていきます。